長雨の時期というのは、色々な事が思い出される。ここの所、朝起きて会社へ赴き、12時間働いて夜中にクタクタになって帰宅するという日が続いているので、生活と思しきものが見当たらない。それが相まって感情が過去に逃げているのかも知れない。ついこの間止めたばかりなのに、再びトレースを始めそうな雰囲気だ。
真夜中。呑み足りないのでコンビニへ酒を買いに行く。途中、僕が住んでいるマンションに棲みついている猫と擦れ違う。散歩中のようだ。街灯の灯りが少し眩し過ぎる。目が眩む。コンビニの照明はそれ以上に暴力的だ。目当ての酒を手に取りさっさと出る事にする。愛想もヘッタクレもないバイトの店員に金を渡し、再び闇の中へ身体を滑り込ませる。道々擦れ違う、夜を歩く者達は何れも寡黙だ。目の動きだけがやたらと感じられる。
マンションに戻ってくると、先ほどの猫が階段の下でじっとして一点を見つめていた。何を見ているのかと猫に近付いて見ると、視線の先に一匹のヤモリが居た。白っぽい肌で尻尾が切れてしまっている。何事かが始まりそうなので腰を下ろして見物する事にした。
ヤモリが動く。猫がビクッと反応し、一歩近付いて凝視する。そろそろと猫が手を出す。ヤモリが逃げる。それを何度か繰り返していく内に壁際に達する。平面的な逃げ場を失ったヤモリは、壁伝いに上に逃げようとする。すると猫はヤモリを壁からはたき落とす。そうして最初からまた繰り返す。しかも猫が通行人に対して過敏に反応して動きを止めるので、なかなか前に進まない。僕に対してはもう慣れてしまっているせいか、そんなに警戒はしないのだが。
当分は決着が着きそうにないので、眺めているのに飽きた僕は部屋へ戻る事にした。
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