太宰府市戒壇院の本尊盧舎那仏をまつる仏殿に二枚の板書が懸けられ、それには一字もおろそかにしない謹直な書が書かれている。その作者が仙厓義梵であることに多くの人は驚くかもしれない。
 仙厓といえば天真爛漫に見える「無法」と自ら称する禅画、戯画をすぐに思い浮かべるからである。しかし、この真剣な書を見ると仙厓の本来の禅僧としての姿や、画いた戯画にも深遠なものがあるように思えてならない。
 仙厓に絵の手ほどきをしたのは、京都出身の斎藤秋圃といわれる。
 秋圃は京阪で人気を博していた絵本作家で、いくつかの絵本が残される。なかでも「葵氏艶譜」は大阪新町の郭の裏側を描いたもので、入浴する芸妓や飲み過ぎて庭にもどす芸妓の姿などをユーモアあふれる表現と洒脱な描写で描き、そのその評価はたいへん高い。

朝日新聞福岡本部編『博多町人と学者の森〜はかた学6〜』葦書房 1996年 p.182