ここに人々が決定的に見落としてきた問いがある。なぜおたくは、「現実に」倒錯者ではないのか。私の知る限り、おたくが実生活で選ぶパートナーはほぼ例外なく、ごくまっとうな異性である。個人的な印象では、おたく人生の「上がり」とは、異性のおたくパートナーとの結婚とみなされているふしがある。したがって私は、おたくにおいて決定的であるのは、想像的な倒錯傾向と日常における「健常な」セクシュアリティとの乖離ではないかと考えている(この意味からも宮崎勤は完全に特殊例だ)。ホモセクシュアルはおろか、真にロリコンであるおたくすら、きわめて少数派なのではないか。それは例えば、アニメのヒロインを偶像化しつつ、日常的には代替物としての現実の女性で我慢する、ということではない。彼らはここでも「欲望の見当識」をやすやすと切り替えているのだ。

斎藤環著『戦闘美少女の精神分析』ちくま文庫 2006年 pp.62-63