おたくの多くは虚構にはまる自分自身をも客観視でき、かつそれをネタにして遊んでいるので、嫌悪感を抱かれる事すらもネタにできるんですよ。あ、もちろん合法的範囲内でですけどね。
 例えば、「スーパーで、『カードキャプチャーさくら』の絵本を買ったら、店員や周りの客に白い眼で見られた」などといった会話も日常的に行います。また、冒頭の「綾波等身大フィギュアで抜く」話で言えば、その横に堂々とローションを備えたまま、友人を部屋に通したりしている人が実在するわけです、これで何をしているか一目瞭然という。
 そう言えば、コミケで、スカトロ系のアニメ同人誌を売っている売り子さん、えらく誇らしげでした。しかも買う側も誇らしげに買って行きます(笑)。
 私が某パソコン通信のアニメ関係のボードのオフ会で、おたくの男性十数人で群れをなして新宿を歩いていた時、たまたまあれは歌舞伎町を歩いていた時だったんですが、風俗の客引きが現れたんですね。「可愛い娘いるよ」って。それに対して、常連メンバーの一人が「おれはセーラームーンの方がいいんだ!」って返して、客引きがおとなしく去って行ったのを見て、みんなで大爆笑したこともありました。
「そこまでやるか普通!」という内外の声は、むしろ敏感に入ってると思います。それらの声に応じて、またあれこれやって遊ぶ。この繰り返しです。
 私の知る限り、おたくの性生活の実体はきわめて健全、といって悪ければ平凡なものです。つまり、性欲のあり方として、健全かつ凡庸であり、パンピーとの差違は認められないんです。だいたい、実生活においてホモセクシュアルであったり、ロリコンであったりするおたくは、少なくとも私の知る範囲ではいませんね。おたく同士でつきあっている男女も珍しくありませんし、男性ならば、稼げるようになって、それなりに社会的地位もできると、ごく当たり前のように普通の女性と結婚していきますしね。まあ大塚英志センセイの言われるように、一般人より異性のお友達が多いかどうかは、よく知りませんが。ともかく一般におたくと性倒錯とはそんなに関係ないと思います。

斎藤環著『戦闘美少女の精神分析』ちくま文庫 2006年 pp.77-79