escobor さんが石油ストーブについて書いていたので思い出した事を少し。

 僕はどうにも寒いのが嫌で、気温が20度を下回れば寒いと感じるし、10度を下回れば屋外に出る気になれないし、一桁前半の気温ともなれば「俺を殺す気か!」くらいの気持ちで天を睨み付けるような温帯気候に適した人間である。僕にとっての適温は27〜28度である。
 そんな僕であるが故に、数年前まで石油ヒーターを使っていた。エアコンの温風でも間に合わない寒さの場合はやはりストーブだろうと近所のイトーヨーカドーに行ったのだが、生憎とストーブを売っておらず仕方なくヒータを買ったのである。幸い近所の灯油を売っている所が在り、土曜日にそこまで赤いポリタンクを持って行き、帰りには満タンのポリタンクを休み休み部屋まで運んでいた。
 そして或る年の冬、前述の店の主人が突然「土曜日は灯油を売らない」とよく解らない事を宣言し、僕は石油ヒータを使えなくなる。ガソリンスタンドで買えば良いのだが、何しろ其処までが遠い。僕の腕力では無理である。僕は泣く泣くエアコン生活を強いられる事になる。僕は家庭用エアコンによる空調が好きではない。自分が工業製品の一部にでも成ったような気分になるし、空調の音が煩い。それに冷房は未だ良いけれども、暖房が嫌だ。冬場の暖められた空気が風で流れるというのが不快だ。
 そして僕はある時通販でデロンギのオイルヒーターを(FMラジオのショッピングコーナーを聴いていて、その場のノリで)買った。これなら空気は動かないし、海外の映画などでよく登場するから憧れていた部分もある。しかしながら、小型のタイプを買ったせいなのかこれが余り暖かくないのだ。暖まるまで時間がかかるし本当に寒い時には余り役には立たない。なのでオイルヒータは秋や春に使う事が多かった。しかし今年は暖冬のせいか、最近までオイルヒーターのみで過ごせていたのだ。この暖かさは良い。優しく暖められた空気は大変心地良い。
 それが此処暫くの寒さに耐えきれず、嫌々ながらもエアコンの電源を入れる。確かに暖かいが、やはり好きではない。灯油の匂いが懐かしい。臭いと言えばそうだが、既にあの匂いは記憶の襞に深く刻み込まれていて余り不快には思えないのだ。灯油の匂い、暖かな室温、シュンシュンと鳴るヤカン、結露する窓ガラス。それらは冬の記憶として僕の意識の奥底に存在している。