高校の頃、知人が僕に向かってこう言ったのです。「キュアー聴きなよ。絶対似合うって!」人に音楽を薦めるのに似合うとか似合わないとかの言葉が出てくるのが良く解りません。そして何故か予め用意されていた(このアルバムがダビングされた)カセットテープを渡され、僕は家でそれを聴いたのでした。以前にも書いたかも知れませんが、僕はその中の " Boys don’t cry " が凄く気に入った為、それから他のアルバムレコードを次々に借りてダビングし、ひたすらに聴きまくっていたのでした。間もなく、根本が空疎な人間がよくやるように、僕は The Cure の中心人物 Robert Smith の格好を真似るようになりました。
 さて、ここで一つ疑問が。僕が彼を真似て細いブラック・ジーンズを穿いたり、白いリーボックのハイカット・スニーカーを履いたり、白いTシャツの上に黒のジャケットを羽織ったり、ダイエースプレー使って長い髪の毛を逆立てたり、瞼にシャドーを入れたり、口紅を引いたりしたのは、果たして自分から積極的にやっていたのだろうか。このアルバムを改めて聴き直している内に様々な記憶が蘇ってきました。

 そもそもこのアルバムが人から借りて聴いたのが最初だという事もさっき思い出した事で、それまですっかり忘れていました。蘇った幾つかの記憶の映像の中にこういうのが在ります。前述の知人が「・・・持って来たよ。」と言いながら学生鞄を開け、中から口紅とアイシャドーを取りだし、僕の唇に赤い色を引き始めました。背景は・・・教室です。二人とも制服を着ています。何でしょうかコレは。妙に倒錯的でエロい光景です。これは僕の記憶なんかではなく妄想なのでしょうか。しかしよくよく考えてみるとこの線が一番妥当なのです。田舎の公立高校に通う男子高校生が口紅なんか普通持っていません。我が家は男兄弟です。母は5年に1回くらいしか口紅を付けません。父が持っていたのなら、それは怖いです。なので間違いないでしょう。
 ここまでの流れで大凡判ると思いますが、その知人は女性です。同級生でした。友達ではなく知人と書いたのは、実は一瞬付き合いそうになりはしたが、結局はそうならなかった微妙な位置に立つ人だったもので。彼女を思い出す事も殆どなく、顔を朧気に覚えている程度でしたが、先ほどついにフルネームまで思い出してしまいました。彼女と福岡駅のホームを歩いていた事も思い出しましたが、その前後が思い出せません。一体何をしていたのでしょうか。思い出せなくてちと悔しい。あ、でも Ecoh & The Bunnymen のライヴには一緒に行った気がする。高校を卒業した後に、彼女とは街で偶然に出会った事がありますが、その時の話は少し悲しくなるのでやめておこう。

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