また電車内での話ですが、時折見かける吊革ダブルハンド。要は二人分の吊革を独り占めしている人の事です。僕が思うに、これをやる人間は30代以上の人々のような気がします。しかし例外が二つほどあります。女の子を座席に座らせ、自分は立ってデレデレと女の子に話しかけている男。こいつです。彼が吊革を二本掴む必要があるのは、声が巧く聞き取れない時に女の子の方に顔を寄せる為、バランスを取らねばなりません。その為に吊革が二本必要なのです。悪気はないのでしょうが(妬みも含め)邪魔です。もう一つは、吊革を使って懸垂しようとする小学生です。一瞬は微笑ましく思えるのですが、さすがにこれを真横でやられると腹が立ってきます。後ろにそうっと回って脇をくすぐってやればさぞ面白かろう、とか考えてしまいます。

 さて、それ以外の取り立てて理由が思いつかないが、何故か吊革を二本占有してしまっている人々ですが、僕はその理由をこう考えます。30歳も過ぎ、酷く疲れていたり酔っていたりすれば、筋力の低下に依り、重心を保つのが困難なのではないでしょうか。そうであるならば解る気もします。しかし、しかしです。中にはそういう性善説を覆してしまうような態度を取る人も居るのです。そういう人達はチラチラを周りに視線を投げかけ、自分が吊革を余分に使用している事を気にしているように見えます。しかしその表情には恥じらいとか申し訳なさのような色は全く見えません。どちらかと言えば自慢げです。どういうつもりなのでしょう。もしかすると、他人より少しでも多くのモノを所有している事が嬉しくて仕方がないのかも知れません。僕はこういう人を見かけると、その手を竹で出来た物差し(家庭科の先生がよく持ってたヤツ)で思い切りスナップを効かせてピシッ!と叩きたい衝動に駆られます。

 で、どうしてこんな事を書きたくなったのかというと、帰りの電車の中でそういうオッサンを見かけたからです。彼の目の前の座席には二人の女性が座っていました。彼は酔っているのでしょうか、重心が安定していません。暫くすると彼の身体が揺れ始めました。二人の女性は少し気になったようですが、直ぐに視線をハズし二人の会話に戻りました。オッサンは自分の身体の揺れに耐えようとしているのか、表情が険しいです。しかし悲しいかな、彼のその努力は報われていません。揺れはだんだんと大きくなり、とうとう身体全体がグラインドし始めました。二人の女性目掛けてダイヴしそうな勢いです。女性二人は訝しげに身体を反らせています。オッサンにも二人の女性にも私は何の義理もありませんが、僕はだんだん心苦しくなってきました。車内の雰囲気も明らかに寒々しくなっています。・・・そして、またタイミング良く私の降りる駅へ到着。その後どうなったかは判りません。