金沢21世紀美術館を語る上で欠かせないキーワード、それが「子ども」である。
 私はここを子どもに感動を与える美術館にし、美術を通して子どもたちの想像力を高め、心を豊かにしたいと考えていた。だから、子どもの目線でこの美術館を作ろうと心掛けた。
 子どもは暗いところは嫌いなので明るくする。子どもは、自分と同じ背丈の子どもの姿が見えれば一緒に参加しようと思うから、中が見えるようにする。子どもはガードマンの姿を見ると本能的に萎縮するから、ガードマンは置かない。実際は警備員はちゃんと配置しているのだが、警官のような制服は着せていない。そして、子どもたちが好奇心をかき立てられながら遊べる作品をたくさん用意する。
 こういった配慮の結果、実に多くの子どもたちが遊びにくるようになった。ゲームにばかりうつつをぬかしていると大人が心配する子どもたちが、ここでは羽を伸ばして奇妙な体験に興じている。だから館内は、いつも驚きの声や歓声で満ちている。事務室にいても叫び声や話し声が響いてくる。

蓑豊著『超・美術館革命ー金沢21世紀美術館の挑戦』角川oneテーマ21 2007年 pp.14-15