いつものように、屋上の欄干に寄りかかって煙草を吸う。風があるせいか、煙草は瞬く間に灰と化し短くなっていく。見上げれば、中央右寄りから分厚く幾重にも折り重なった雲が左へと広がっている。オレンジとピンクを奇跡的な配分で混ぜ合わせた色に染め抜かれたそれらは、僕の顔にも色落とす。絶景とはこういうモノを言うのだろうか。見慣れた眼下の市井は元より空中庭園を遙かに超え、人間の枠をも越えた雄々しき世界。赤く透明な光が洪水となって僕に押し寄せて来る。いつの間にか根元まで燃えてしまった煙草を僕は欄干に押し当てて潰し、アルミの空き缶に放り込む。ふと見下ろせば、そこには見事な高低差を保った谷間が遠くに見える。揺れているように感じるのは僕の不安定さがそうさせるのだろうか、それとも谷間そのものがが道を歩いているからなのだろうか。うへへ。