4階建てのビルの屋上で、欄干に身を預けながら煙草をくゆらす。蒼と白のコントラストが高くて透明度の高い空。強い陽射しが頭の中を溶かしてくれて気持ちが良い。見渡せば、大凡5階建てか6階建てのビルが多く、最上階には判で押したように各々のビルオーナーの住居が鎮座している。加えて一様に広いベランダが設けてあり、住人が思い思いの箱庭を凝縮させている。数十種類の植物を育てていたり、自転車を置いていたり、窓辺には雪見障子がはめ込んであったり、場合に拠ってはお稲荷さんが奉ってあったりする。その様はまるで市井をそのまま上空に持ち上げたようだ。東京都心の上空には路地が巡っている。アスファルトとコンクリートとアルミとステンレスと鉄とガラスでササクレだった空間の上では、水端の湿り気を帯びた営みが今でも繰り返されている。