数日前に見た夢の話。

 とある街の繁華街の裏通り、例えるなら、通りの空間の狭さと人通りの多さは新宿東口くらいの感じで、雰囲気は三宮辺りの小洒落たものだ。その通りの角を曲がってすぐの場所に喫茶店が在る。外壁は古ぼけたレンガのタイル貼りで、左側に位置する入口へは階段を二つ登る。狭い踊り場のような空間が在り、奥まったところに分厚い木製の扉。これも古ぼけていて、はめ込んだガラス窓から店内が伺える。その入口の扉の左側の壁、ここもレンガタイル貼りであるが、そこに高さ100mmくらいの大きさの真鍮の切り文字で「 Cafe LEE 」と屋号が貼り付けてあり、足元には観葉植物の鉢植えが置いてある。そして入口の右側には、道に面した外壁が600mmほど在り(柱の部分であるのだろう)それから更に右側は床から天井までの、黒い鉄製の格子枠にはめ込まれたガラス窓になっている。
 僕は学生時代にこの店に入り浸っており、社会人となってからも度々訪れていたようだ。そして今回は、閉店パーティー(とは言っても、通常の営業時間で、特別なメニューが追加される程度)が催される知らせを受けた僕は久しぶりに顔を出しに来たという訳だ。入口の外には小さなスタンドタイプの灰皿が置いてあって、そこで二人の年若い顔見知りが煙草をすいながら談笑していた。僕は二人に声を掛け、二言三言の言葉を交わして中に入った。

 入口の扉を開けると正面に木板の狭い壁が在り、其処には2号キャンバスくらいの小さな、額縁に納まったルオーの宗教画のような絵が飾ってある。その壁の向こう側、奥に向かって右側には5人分のカウンター席が列んでいる。木壁の左側にはスイングドアが在り、その奥が厨房だ。コンロが二つと、その横のステンレス製のキッチンカウンターの上には何本ものサイフォンと白いカップと皿が所狭しと並べてある。通常この店では、珈琲や紅茶と幾つかの銘柄の麦酒とグラスワイン、軽食としてサンドイッチやケーキ、ナッツ類しか出していないので、厨房も簡素だ。
 そして店の右側には、表に面した窓際には二人掛けのテーブル席が三組、奥側の壁に沿って四人掛けのテーブル席が三組在る。テーブルも椅子もそれぞれに、これ以上想像つかないくらいに何の変哲もない形状の、これまた古ぼけたものだ。何十年分もの傷が刻み込んであり、染みもグラデーションのように拡がっている。客席の突き当たり、表の通りから見れば一番左には出窓が在り、ステンドグラスがはめ込んである。
 フロア全体は木製の床で、人が歩けば靴音が響く。表通り側の床から天井までのガラス窓は固定されて開けないが、その上部に排煙窓が在り、春や秋の過ごしやすい季節には空調を止め、そこを開け放っている。天井も高くて、二基のサーキュレーターがゆっくりと回っている。店内に流れる BGM は音を絞ったジャズのみだ。

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 僕が店に入り、ちょうど出くわしたマスターに挨拶をし、他に常連客が来ているのか訪ねると、テーブル席から学生時代の友人が声を掛けてきた。窓際の席に着いて友人とあれこれ話していると、ポツポツとかつての常連客が店に入ってきた。奥の席に座って、マスターと話している僕と同年代の女性客には見覚えがある。カウンター席で喋っている老境に入った二人の男性は、かつても同じようにその席で話し込んでいた二人だ。その他にも、よく知る者、よく知らない者、初めて見る者、多くの客達が入れ替わり立ち替わり店に入ってきては、珈琲や麦酒を呑んだり、特別メニューのピザやキッシュを食べ、マスターや歴代のウエイトレス達と言葉を交わしていた。

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 以上、それだけの夢なのだけれど、情景描写と空間認識ばかりの夢というのが珍しいので、記録しておく。